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それは淡い桃色をしていた。
それはとても薄かった。
薄くて、ぱりぱりしていた。
一口かじると、ほのかな桃の香りが口の中に広がり、消えた。
…まるで、口の中に溶けてしまったかのように。

「おいしいでしょ」

窓際の少女が微笑む。

がたごとと、少々荒っぽい音を立てながら進みゆく列車。
読書をする人、居眠りする人、みかんを食べる人。
窓からは消えかかった夕陽が射し込み、ぼんやりと人々を照らしている。

ひたすら静かな車内。まるで話をするのがためらわれるような。

「おいしい、でしょ」

返答を求めるように、少女の瞳が煌めいた。

「…うん、おいしいね」

手のひらほどの薄い煎餅。
桃色の、香ばしい煎餅。
初めて食べる味だった。

「それ、ね」

僕の心を見透かすような、少女の黒い瞳。
僕は思わず引き込まれそうになり。

ふいに列車が大きく揺れた。

「…何の味だと思う?」

当たり前のような、当たり前でないような、質問。

戸惑う僕の耳元で、少女がささやいた。

「恋の、味、なんですって」

密やかな少女の話を聞きながら、
恋心を固めたという煎餅を、
僕はまた一口、かじった。

再び広がった淡い桃の香りは、
軽い眩暈のような揺らめきを残し、
僕の口の中で、
名残惜しそうに、
消えた。

(2004.01.03)

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