Sponsored Link

恋/其の弐

「ねぇ」

「…いいこと。教えてあげようか」
「え?」

不意に少女がささやいた。

明るい闇に包まれ始めた世界の中を進む列車。
窓の外を、まばらに、街灯が流れてゆく。
遠く、近く。まるで思い出したように。

「それ、売ってる場所」

…もうすぐ次の駅だ。
なんてことを頭の隅で思いながら、僕は少女の話に耳を傾けていた。

「このまま終点まで行ったら、駅前を左に曲がってごらんなさい」

「終点?」

この路線の終点。
なんという駅だったろうか。
記憶になく、行ったこともない場所。

列車が減速し始めた。

「えー、次はー、…」

到着駅を知らせる声が、静かな車内に響き渡る。

「じゃ、ごきげんよう」

急速に速度は落ちていき。
するすると駅に滑り込むと、一旦大きく揺れ、列車が止まった。

「…え…」

幾人かの乗客が降りた。
僕の返答も聞かぬまま、少女もまた、降りていった。

新しい乗客を迎えることなく、動き出す列車。

降り損ねた僕は、ぼんやりと、頭の中で少女の言葉を反芻していた。

「終着駅、か」

誰に言うともなくつぶやき、桃色の煎餅の最後のひとかけらを、口に放り込む。

再び広がった淡い桃の香りは、
軽い眩暈のような揺らめきを残し、
僕の口の中で、
名残惜しそうに、
消えた。

(2004.02.06)

目次

Home